不二現代書展
第25回不二現代書展審査員による今回の審査評を紹介いたします。
第二十五回不二現代書展開催に当たって 審査委員長 石橋 鯉城
創立者石橋犀水博士が他に先駆けて新和様の書を提唱したのは1965年の事であった。
それは書道の現代的な伝播を求めて、漢字と仮名を交え、誰にでも読め、文意の解り易い書の創造を目指したものと言われているが、只、それが言葉の記号としての文字の新しい表記を試みただけではない。石橋犀水が、この漢字かな交じり書をあえて「新和様」と命名したのは、和風の書の美しさ、中国古典の書にはない我が国独自の書の線の美しさ、その織りなす空間の美しさを意図して命名されたものであると思う。
1964年犀水は西欧を旅し、彼の地の歴史に培われたその文物を見聞し、我が国独自の伝統の美の現代的な新しさを持つことの大切さを痛感した。ここに新しい和様の書として、漢字かな交じり書の形をかりて、この和の美の現代的な表出を願ったのであろう。
1986年、大阪に於いてこの新和様のみによる展覧会を「不二現代書展」と銘打って開催したのである。これは本邦に於ける漢字かな交じり書のみによる初めての展覧会であった。
近年、漢字かな交じりの書表現は大いに書道界に普及し、様々な形での表現が見られるに至った。ここに於いて、本会では2007年、第二十回展より新しく現代の書の方向性を模索すべく、書の創成の歴史に遡り、文字を分解し独自の美意識によりそれを再構成せんと文字構成部門を設けた。爾来五年の歳月を経て、今日、この文字構成部門も、その文字性と表現技法を習得しつつ、新しい造型を試みんとする様々な個性的な書家の輩出を見、今回の二十五回展を迎えるに至った。
本会月刊誌「不二」の「漢字造形(一字書)」部門に学ぶ会員諸氏の日頃の研鑽を見るにつけ、今後の更なる展開を期待するところである。
役員作品(審査会員・無鑑査)審査評 池田 龍仙
十一月二十三日、改築なった書道学会ビルにおいて第二十五回不二現代書展の鑑審査会が開催されました。三月の東日本大震災の影響で、出品数の減少が懸念されましたが、昨年とほぼ同数ということでございました。
役員審査は、石橋鯉城審査委員長、石橋應和日本書道藝術専門学校長、そして私とで観させていただきました。役員の方々の作品は、自分自身の表現意図をもって、積極的な運筆で書かれたものが多くみられました。本展の鑑審査基準にあるように、「師風類型やパターン化をさけ、自らが新分野を開拓する精神、斬新で二十一世紀に相応しいアイディアに富む」作品を求めており、不二現代書展はまさにそれが大目標であるのです。役員作品には、それに応える内容を探求すべく、共に今後の書作に更なる精進を期待するところであります。
今回展で、新和様・漢字造型書作家協会賞が三点選出されましたが、いずれも新鮮な感性が光っている見事な作品であり、御三方の今後の活躍を祈念いたし、寸評をつけ加えさせていただきました。
- 今川佳香氏
- 痛快な運筆が冴える漢字四字作品である。長鋒で硬めの毛質の筆かと思われるが、思い切りのよい筆致で鋒先の開閉、運筆の遅速緩急、抑揚が見事なハーモニーを奏でる。文字の造形性と線質の妙に、大胆さと細心さ両様の書作態度がよい。
- 斎藤江葉氏
- 各行の上部をそろえて下部に余白をとり、行間と文字の大小強弱の変化でバランスのとれた新鮮味ある新和様作品だ。濃墨を使って表現停止された線は、紙背に深く沈んで沈着さがある。重厚な書線でありながら、余白を大切にしようとする細心さがよい。
- 小野和溪氏
- 全紙二分の一の大きさに書かれた一字書漢字造型作品である。墨色の美しさに加え、一画目から終画までの気脈はまさに貫通していて、運筆の遅速と抑揚による多彩な線と結構の調和がすばらしい。変化と統一ある構成の中に格調の高さを秘めた快作。
今年は力作が多く、審査会員推挙に選出された作品は前回を上回り、いずれも作風を異にしながら多様な書美に充ちた作品が目立ちました。文字性の確かさと墨色の美しさ、大胆さと繊細さ、運筆の多彩さと章法の妙と、幅広さがありました。
今後も役員出品の中で、現代書展に相応しい作が数多く発表されることを期待しています。
「新和様」(A・B・C)部門審査評 中村 城翠
十一月二十三日(水)書道学会ビルで第25回不二現代書展の鑑審査会が行われた。最初に石橋理事長審査委員長から鑑審査の基本方針の確認があり三班に分かれて鑑審査を開始した。私を含め三名がこの部門を担当した。
出品作には三月の東日本大震災で無惨にも破壊された故郷を悲しみのうちにも愛おしく詠うもの、また人間社会の絆の優しさ美しさ強さに励まされて生きる希望と勇気が湧いたことを喜び感謝する自作文が散見され心を動かされた。
Aは180×53の縦作品で誰もが最初に手がける形式で経験もあり、二、三行書きが多く作品らしくはなっているが平凡でもの足りない作品がある一方、気脈が貫通し行間も美しい作品、墨の濃淡・文字の大小の変化等に富む力作も多く、これらが受賞作の候補となった。
Bは53×135の横作品で、A形式に比べると受賞作は別として経験不足の作が多い。特に行間の処理や行の長短にも変化がほしい。
CはBの縦形式である。前回展の反省点が改善され、行を詰め込んだ騒がしい作品が減少したことは一歩前進であり喜ばしい。
前述以外で全体を通して気付いたことは、
- 出品に際しては出典と自作品をしっかり照合し、思い込みに因る誤字や脱字を避ける(選外作の大半はこれらが原因)
- 草稿の推敲は丁寧にしっかり、くり返し行うこと、この点が実践されれば意図した作品に近づく
- 文字の黒だけでなく余白の白も大切
- 落款は余白が多いからといって、やたら長々と入れず余白を効果的に活かす入れ方を考える
- 雅印も大きさ、印泥等作品に相応しいものを用いる
ところで書を学ぶには多書だけでなく多見も大切、書展や作品集等で鑑賞眼を培ってほしい。
最後に受賞作について寸評する。文部科学大臣賞は絹目雅箋に高度な技倆で筆を駆使し、書き出しは静かに、徐々に情感を盛り上げ、「やはらかき」で頂点に達し、その渇筆と墨色の美しさは素晴らしい。神戸市教育委員会賞の「初雪の〜」は、自然で明るく品致ある作品で犀水先生の提唱された新和様の精神を具現化した模範作と言えよう。
「新和様」(D・E・F)部門審査評 小久保 嶺石
第二十五回不二現代書展の鑑審査会は十一月二十三日(祝)神田の書道学会ビルに於いて開催された。鑑審査に先立ち審査委員長の石橋鯉城先生よりご挨拶と鑑審査に対しての心構えが話され、その後各班に分れての審査が行われた。私は一部D・E・Fの担当で私を含めて四名により行った。
初めに、D・E・Fの作品を下見したが、Dは35×180と縦長の作品であり構成は比較的皆さんが馴れている形式。Eは半折を横にしての作。Fは70×68という全紙半切の大きさであり、E・Fは字数・構成など創意工夫が出来る形式でもある。
初めに四名の審査員により、誤字脱字などに留意して慎重に、又、作者の立場に立っての創作意図などの配慮を頭に入れ乍ら審査を行うことを確認した。
D作品は、半折幅ということで二行、三行のたて書き、又は上下二、三段という構成が一般的で、比較的日頃書いている形式で無理のない作が多く、反面これはという傑出した作品が見当たらなかった。E作品は横形式で字数の多少により構成が異なり、少ない字数のものは散漫になり勝ちで、又字数の多いものは騒がしくなっているものが散見された。適当な字数、選文に配慮した作がよく収まっていた。F作品は70×68の全紙1/2の形式で正方形とも云える。選文も俳句や短文で筆力充実、墨気の強さや余白の妙など創意工夫のある作が見られた。
高得点で入賞候補に推された作は、D・E・Fいずれも、線の錬度のある作、紙墨がよく調和して安定感のある作、そして創意工夫のある作であった。惜しくも選外となった作には、誤字が見られる作、また作品としての線質に不十分な錬度の低い作などであったが、今後大いに精進されることと切望したい。必ず次回ではよい作となっていくことであろう。
総じて印象に残ったのは、このクラスでは落款印が作品と調和していない作が多く見られたことである。大き過ぎたり、方形で固い感じのものであったりと、調和を欠いており、折角の作が落款で壊されてしまっていた。
D・E・Fの入賞候補作品で上位入賞作は、類型作ではなく創意工夫の見られ尚かつ品致ある作ですばらしかった。
「文字構成」(G・H)部門審査評 石橋 智子
朝の冷気に、ようやく秋の到来を思せられる十一月二十三日、不二現代書展の審査が行われました。
他に先駆けて現代の書を目指し、取り組んでまいりました本会の新和様の書表現も近年、漢字かな交じり書として大いに書道界に普及し、さまざまな様式を見るに至りました。
本会は再び新和様の意味を問い、書の現代の姿を求めて文字構成(漢字造型)部門を第二十回展より創設し、漢字創成の原点に戻って文字を分解、再構成しつゝ生きた造型を刻してまいりました。爾来五年を経て、今回の二十五回展では多くの創意溢れる出品作を見せていたゞくことが出来ました。
また毎回の不二誌に一字書部門を設け、日頃より研鑚に努めたことも預って大きな力となったと思われます。
次に今回の受賞作品について述べさせていたゞきます。
特に文部科学大臣賞受賞の内間翠海さんの一字書に一段と心魅かれました。
紙面を大きく縦に走る二本の線、上部を突き抜け切られた空間は線と対等の強さを持つ白い空間です。
生きた線は、呼吸でもって書かれ、それに合せた筆使いがなされています。一画目は静かに入り、二画目に移り、縦に入った筆は横に筆の面を変えて動き、筆を起して、もとに戻す。八面出鋒して堂々と書しています。
油絵の具で、油絵の筆ではこの線は引けません。西欧の抽象絵画に見られる白墨の空間処理のおもしろさとは異なる墨色の妙、筆勢のもつ生命感、強靭な線の変化等、その迫真力に驚かされました。
昨年に続く沖縄の方の受賞ときゝます。私はあの沖縄の深く透明な青い海、そして空を思い、そこに育まれた作者の自由な心を思いました。そしてまたこの地の人々が、さまざまな苦難の歴史と闘いながら、守り継承している様々な秀れた伝統の芸術 ー 音楽・舞踊・陶芸・染色・織物・ガラス工芸 ー を思い、この沖縄の地に息づく民族の誇りともいうべき、その心意気に心打たれました。
それに次ぐその他各賞の作品もそれぞれ個性的な造型で自己主張がなされていて素晴らしい。
本会の漢字造型部門は多くの次に続く意欲的な作品群を擁し、多くの可能性をもって展開されていることは、誠に頼もしい限りです。